保育施設における新任職員への安全管理OJT:体制構築と効果的な指導
保育施設における新任職員への安全管理OJTの重要性
保育施設における安全管理は、すべての子どもたちの健やかな成長を守る上で最も基本的な責務です。その安全管理体制を維持・向上させていく上で、新任の保育士や職員に対する初期研修、とりわけオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)は極めて重要な位置を占めます。
経験豊富なベテラン職員が多い施設であっても、新任職員は保育現場特有のリスクや安全管理に関する暗黙知に不慣れである場合があります。また、新しい環境への適応に伴う緊張感から、予期せぬヒューマンエラーに繋がる可能性も否定できません。そのため、安全管理に関する基本知識の習得だけでなく、実際の保育現場での実践を通して、危険を察知する能力や適切な判断・対応能力を早期に身につけさせることが不可欠です。
効果的な新任職員への安全管理OJTは、個々の職員のスキル向上に留まらず、組織全体の安全レベル底上げに貢献し、結果として重大事故の発生リスクを低減させることに繋がります。本稿では、保育施設における新任職員向け安全管理OJTの体制構築と効果的な指導について論じます。
安全管理OJT体制の構築
新任職員への安全管理OJTを効果的に進めるためには、まず組織的な体制を構築することが重要です。属人的な指導に頼るのではなく、計画的かつ継続的に実施できる仕組みを整備する必要があります。
1. OJT担当者の選定と育成
新任職員を指導するOJT担当者は、単に経験が豊富であるだけでなく、安全管理に関する深い知識と実践力、そして教えるスキルが求められます。組織として、OJT担当者に必要な知識や指導方法に関する研修を実施し、担当者の育成に努めることが望ましいでしょう。また、担当者の負担が過重にならないよう、複数の担当者を配置したり、チーム全体でサポートする体制を構築したりすることも考慮が必要です。
2. OJT計画の策定
OJTは場当たり的に行うのではなく、体系的な計画に基づいて実施することが重要です。新任職員が短期間で身につけるべき必須の安全管理項目を明確にし、どの期間に、誰が、どのように指導するかを具体的に盛り込んだ計画を策定します。例えば、入職後1ヶ月で身につけるべきこと、3ヶ月で身につけるべきことといった段階的な目標設定や、午睡チェック、送迎、アレルギー対応といったリスクの高い業務に関する集中的なOJT期間を設けることなどが考えられます。
3. 記録と評価
OJTの進捗や新任職員の習熟度を記録し、定期的に評価を行います。記録は、指導内容、新任職員の理解度、課題、今後の指導方針などを具体的に記述します。この記録をもとにOJT担当者と管理職が連携して評価を行い、必要に応じて指導計画の見直しや追加研修の実施を検討します。記録は、新任職員が安全管理の基本を習得したことの証左ともなり得ます。
OJTにおける具体的な指導内容と効果的な指導法
新任職員への安全管理OJTでは、単にマニュアルを読ませるだけでなく、現場での実践を通して「なぜそうするのか」を理解させ、危険を回避するための具体的な行動を促すことが重要です。
1. 基本ルールの周知と理解促進
まず、施設の安全管理規程、各種マニュアル(事故対応マニュアル、危機管理マニュアル等)、ヒヤリハット報告に関する手順など、安全管理の基本的なルールや仕組みを丁寧に説明し、理解を促します。一方的な説明だけでなく、質疑応答の時間を十分に設けることや、実際の書類を用いて説明することで、より実践的な理解に繋がります。
2. 危険予知トレーニング(KYT)の実践
実際の保育場面を想定した危険予知トレーニング(KYT)は、新任職員の危険察知能力を高める上で非常に有効です。写真やイラスト、動画などを活用したり、実際の保育室や園庭で具体的な場面を示したりしながら、「この状況にはどのような危険が潜んでいるか」「その危険を防ぐにはどうすれば良いか」を共に考え、議論する時間を設けます。
3. 重要業務に関する実践的指導
午睡時のブレスチェックや体位交換、送迎時の安全確認、食物アレルギーのある園児への配慮や緊急時の対応、プール・水遊び時の見守り体制など、特にリスクの高い業務については、OJT担当者が実際に側について実践的な指導を行います。手順の確認だけでなく、「なぜこの手順が必要なのか」「過去にどのような事故があったか」といった背景知識も共有することで、ルールの遵守意識を高めます。
4. ヒヤリハット報告の徹底と活用
小さなヒヤリハットにも気付き、報告することの重要性を繰り返し伝えます。報告様式の記入方法だけでなく、「報告しやすい雰囲気」をOJT担当者が作り出すことが大切です。「こんなこと報告していいのかな」という迷いを払拭し、些細なことでも相談できる信頼関係を築きます。報告されたヒヤリハット情報をOJTの中で共有し、「どうすれば防げたか」を一緒に考える機会を設けることも有効です。
5. 実践とフィードバック
新任職員が実際の保育活動の中で安全管理に関する実践を行った際には、OJT担当者はその様子を観察し、良かった点や改善すべき点について具体的かつ建設的なフィードバックを行います。一方的に評価するのではなく、新任職員自身の振り返りを促す問いかけを交えながら対話形式で進めることで、内省を深め、主体的な学びを促します。
フォローアップと組織全体のサポート
新任職員への安全管理OJTは、一定期間で終了するものではありません。継続的なフォローアップと、組織全体のサポートが不可欠です。
定期的な面談を通じて、新任職員が抱える不安や疑問を解消し、安全管理に関する課題がないかを確認します。また、OJT期間終了後も、チームの一員として安全管理に関わる議論に参加させたり、経験年数に応じた継続的な研修を提供したりすることで、安全管理に関する知識・スキルをアップデートできる機会を提供します。
ベテラン職員を含む組織全体が、新任職員を温かく見守り、困った時にはすぐにサポートできる協力体制を築くことも重要です。組織全体で安全文化を醸成し、「安全は全員で守るもの」という意識を共有することで、新任職員も安心して業務に取り組むことができ、結果として事故リスクの低減に繋がります。
まとめ
保育施設における新任職員への安全管理OJTは、子どもたちの安全を守る上で、そして組織の持続的な安全管理体制を構築する上で、極めて重要なプロセスです。計画的な体制構築、具体的な指導内容の選定、実践的かつ効果的な指導法の採用、そして継続的なフォローアップと組織全体のサポートを通じて、新任職員が早期に安全管理の基本を習得し、自信を持って業務にあたれるよう支援することが、園長先生はじめ施設のリーダーに求められます。
新任職員へのOJTは、単なる指導ではなく、未来の安全を担う人材への投資と捉えることができます。本稿が、皆様の施設における新任職員向け安全管理OJT体制の見直しや改善の一助となれば幸いです。