保育施設の園外活動における安全対策:計画策定から実施、事後対応まで
保育施設における園外活動の安全管理:計画策定から実施、事後対応まで
保育施設における園外活動は、子どもたちの多様な学びと豊かな経験を育む上で重要な機会です。自然に触れたり、地域社会と交流したりすることは、子どもたちの心身の発達に良い影響を与えます。一方で、慣れない環境での活動は、施設内とは異なる様々なリスクを伴います。保育園の安全管理において、園外活動における事故を未然に防ぎ、万一の事態に適切に対応するための体制を確立することは、園長先生をはじめとする全ての職員にとって重要な責務です。
この記事では、「保育安全ガイドライン」として、園外活動を安全に実施するための具体的な対策について、計画策定、実施、そして事後対応の各段階に分けて解説いたします。
園外活動における安全管理の基本的な考え方
園外活動の安全管理は、単に事故が起きないことを願うだけでなく、潜むリスクを事前に予測し、そのリスクを最小限に抑えるための対策を講じるプロセスの積み重ねです。これには、活動内容、移動手段、目的地、参加する子どもの年齢や発達段階、天候、時間帯など、様々な要素を考慮した多角的な視点が必要です。
重要なのは、特定の担当者だけでなく、園全体として安全に対する共通認識を持ち、組織的に取り組むことです。安全管理規程に園外活動に関する項目を盛り込み、すべての職員がその内容を理解し、実践できるように研修や情報共有を徹底する必要があります。
計画段階における安全対策
園外活動の安全性を確保する上で最も重要なのが、事前の周到な計画です。
1. 目的地とルートの選定・下見
活動の目的に合った目的地を選定するとともに、子どもたちが安全に移動できるルートを選びます。計画段階で必ず目的地とルートの下見を実施してください。下見では、以下の点を重点的に確認します。
- 交通状況: 車や自転車の通行量、信号機の有無、横断歩道の位置、歩道の幅員、死角となる場所などを確認します。
- 危険箇所: 水辺、崖、急斜面、工事現場、人通りの少ない場所、不審者が潜伏しやすい場所など、子どもの行動範囲になりうる場所の危険性を確認します。遊具のある公園の場合は、遊具の安全性を確認します。
- 休憩・避難場所: 緊急時に利用できる建物や日陰、雨をしのげる場所、トイレの有無と清潔さを確認します。
- 通信環境: 携帯電話の電波状況を確認します。
- 活動内容に適した環境: 広さ、地面の状況、遊具、日当たりなど、予定している活動が可能かを確認します。
下見の結果は記録し、職員間で共有します。可能であれば、複数名で異なる時間帯に下見を行うことで、より多様なリスクを発見できる場合があります。
2. リスクアセスメントの実施
選定した目的地とルート、活動内容について、具体的なリスクアセスメントを実施します。どのような危険が想定されるか、その危険が発生する可能性はどの程度か、発生した場合の影響はどの程度かなどを評価します。
例: * 危険要因: 公園までのルートにある交通量の多い道路 * 想定される事故: 交通事故(飛び出し、信号無視など) * 発生可能性: 高い(時間帯による) * 影響度: 高い(重傷、死亡の可能性) * 対策: 交通量の少ない時間帯を選ぶ、信号のある横断歩道を利用する、複数の職員で見守る、子どもの手をつなぐ・紐を持つ、交通安全に関する事前指導を行う、等
洗い出したリスクに対して、具体的な予防策や発生時の対応策を検討・決定します。リスクアセスメントの結果と対策は文書化し、参加する全ての職員が理解するように努めます。
3. 引率体制の計画
子どもの年齢や人数、活動場所の特性に応じて、適切な職員の配置を計画します。厚生労働省の定める保育士配置基準に加え、園外活動の危険度に応じた手厚い配置を検討することが重要です。
- 役割分担: 先頭、中間、最後尾を担当する職員、危険箇所で特に注意する職員、体調不良の子どもに対応する職員など、具体的な役割を明確に定めます。
- 資格・経験: 救命講習修了者や、過去に園外活動の引率経験が豊富な職員などを考慮した配置を検討します。
4. 緊急時連絡体制の確立
事故や緊急事態が発生した場合の連絡体制を事前に確立しておきます。
- 園との連携: 引率責任者と園との間で、迅速に連絡を取り合う手段(携帯電話、トランシーバーなど)とルールを確認します。電波状況が悪い場所での代替手段も検討します。
- 外部機関への連絡: 警察、消防、医療機関への連絡方法、伝えるべき情報(場所、状況、人数など)を整理しておきます。
- 保護者への連絡: 緊急時の保護者への連絡手段と連絡網を確認します。
5. 保護者への情報提供と同意取得
園外活動の目的、日時、場所、ルート、活動内容、持ち物、服装、緊急連絡先、保険適用範囲、そして安全対策について、保護者に事前に詳細な情報を丁寧に提供します。活動への参加にあたっては、保護者の同意を必ず取得します。特に、食物アレルギーや持病、配慮が必要な事項がある子どもについては、保護者と十分に連携し、必要な対策を講じます。
実施段階における安全対策
計画に基づき、実際に園外活動を実施する際の安全対策です。
1. 出発前の最終確認
出発前に、参加する子どもたちの健康状態、持ち物、服装などを最終確認します。また、引率する職員全員で、当日の役割分担、ルート、危険箇所、緊急時の対応について再確認します。子どもたちにも、交通ルールや集団行動の約束事について、分かりやすく具体的に指導します。
2. 移動中の安全確保
最もリスクが高いのが移動中です。
- 隊列: 子どもの安全を確保しやすい隊列(例:ロープや紐を持つ、年齢順に並ぶなど)を作り、職員が適切に配置されます。車道側には必ず職員が付き添います。
- 横断歩道: 信号のある横断歩道を優先し、信号が青でも左右の安全を確認してから渡ります。職員が前後で子どもたちの安全を確保します。
- 声かけ: 移動中、常に子どもたちに声をかけ、状況を把握します。「止まるよ」「右を見るよ」など、具体的な指示を行います。
- 迷子対策: 子どもの人数を確認する「人数確認」をこまめに行います。グループを分ける場合は、担当職員が明確にそれぞれのグループを管理します。
3. 目的地での活動中の安全確保
目的地に到着したら、改めて危険箇所がないかを確認し、子どもたちの行動範囲を明確に伝えます。
- 自由行動: 広場での自由遊びなど、自由な活動を認める場合でも、職員は常に子どもたち全体に目を配り、危険な行動や場所へ立ち入らないよう見守ります。
- 遊具の使用: 公園の遊具を使用する場合は、対象年齢を確認し、職員が安全に配慮して見守ります。壊れている遊具や危険な使い方はさせません。
- 体調管理: 水分補給や休憩を適切に促します。顔色や言動などから体調の変化を察知し、体調不良の子どもにはすぐに対応します。
- 持ち物管理: 子どもたちが自分で持ってきたおやつや飲み物などを勝手に交換したり食べたりしないよう指導します。
4. 職員間の連携と情報共有
園外活動中は、職員同士の密な連携が不可欠です。危険な状況や子どもの体調の変化などに気づいた場合は、すぐに他の職員や引率責任者に情報共有します。トランシーバーや携帯電話などの連絡手段を活用します。
事後対応と振り返り
園外活動が無事に終了した後も、安全管理の取り組みは続きます。
1. 帰園時の最終確認
園に戻ったら、参加した子どもたち全員が安全に戻ってきたことを確認します。
2. ヒヤリハット・事故の報告と記録
活動中に発生したヒヤリハットや事故については、大小に関わらず、必ず詳細に記録します。発生日時、場所、状況、対応、関係者の氏名などを正確に記録し、園内で共有します。
3. 振り返りと改善策の検討
園外活動の終了後、引率した職員間で振り返り会議を行います。計画通りにできた点、課題となった点、ヒヤリハットや事故の要因などを分析し、次回の活動や今後の安全管理体制の改善に活かします。リスクアセスメントの見直しや、マニュアルの改訂が必要な場合もあります。
職員研修と保護者連携の重要性
園外活動の安全管理を実効性のあるものとするためには、職員一人ひとりの安全意識を高め、共通の知識とスキルを持つことが重要です。園外活動におけるリスク、具体的な危険回避の方法、緊急時の対応マニュアルなどに関する定期的な研修を実施します。
また、保護者との良好な連携も欠かせません。園外活動の意義や安全対策への理解を求めるとともに、子どもの健康状態や気になる点について積極的に情報提供していただけるような信頼関係を築くことが、子どもの安全につながります。
まとめ
保育施設における園外活動は、子どもたちの成長にとって貴重な経験の場ですが、同時に潜在的なリスクも存在します。これらのリスクを低減し、安全な活動を保証するためには、計画段階での徹底したリスクアセスメント、実施中の細やかな配慮と職員間の連携、そして事後対応と振り返りによる継続的な改善が必要です。
園長先生におかれましては、この記事でご紹介した内容を参考に、各園の実情に合わせた具体的な安全対策を策定・見直し、職員全体で安全への意識を高め、子どもたちが安心して園外活動を楽しめる環境づくりに取り組んでいただければ幸いです。「保育安全ガイドライン」として、今後も保育施設の安全管理に役立つ情報を提供してまいります。