保育施設の安全教育:園児自身がリスクを理解し安全な行動を身につけるための実践アプローチ
園児への安全教育の重要性とその基本的な考え方
保育施設における安全管理は、職員の配置基準遵守や環境整備、リスクアセスメントといった体制面の構築に加え、そこで生活する子どもたち自身の安全に対する意識や行動を育むことも不可欠です。単に危険なことを「してはいけない」と教えるだけでなく、なぜ危険なのかを理解し、自ら安全な行動を選択できるようになるための安全教育は、長期的な視点での事故防止において極めて重要であると考えられます。
子どもたちは遊びや生活を通じて様々なことを学びます。安全についても、一方的に知識を与えるのではなく、体験を通して体得していく側面が大きいものです。園児への安全教育は、子どもたちの発達段階や理解度に応じて、無理なく、しかし着実に安全に関する感覚や知識、そして判断力を育んでいくことを目指すべきです。
発達段階に応じた安全教育の実践
園児への安全教育は、年齢や個々の発達に応じて内容や伝え方を調整することが重要です。
- 乳児クラス: この時期は、危険を予知したり理解したりすることは困難です。主に安全な環境を整備すること、そして保育者が危険な場所や物に近づかないよう見守ること、危険を避ける保育者の行動を見せることが中心となります。危険なものに触れそうになった際に「これは危ないね」など、言葉で伝えることも繰り返すことで、徐々に言葉と危険を結びつける第一歩となります。
- 1歳児・2歳児クラス: 身体的な活動が活発になり、好奇心も旺盛になる時期です。引き続き環境整備と見守りが中心ですが、簡単な言葉やジェスチャーで危険を伝え、「走ると転ぶよ」「高いところは危ないよ」といった具体的な状況と危険の関係を伝える機会が増えます。絵本や手遊び歌などを通して、楽しみながら安全に関するイメージを伝えることも有効です。
- 3歳児・4歳児クラス: 集団での活動が増え、言葉の理解度も向上します。具体的な事例を通して、危険な状況を予測する練習を取り入れることができます。例えば、「ここで積み木を崩すと、お友達に当たるかもしれないね」といった声かけは、他者への影響を含めた危険予測の視点を育みます。簡単なルール(遊具の使い方の順番、横断歩道の渡り方など)の意味を理解し、守る練習も行います。
- 5歳児クラス: より複雑な状況判断や、複数の選択肢の中から安全な行動を選ぶ練習を取り入れることができます。避難訓練の際に、なぜこのルートを通るのか、なぜ「おかしもち(押さない、駆けない、喋らない、戻らない、近づかない)」が大切なのかなど、理由を含めて伝えることで、子ども自身の判断基準を育てます。ロールプレイングを通して、不審者対応や交通安全などのテーマについて、具体的な行動を学ぶことも有効です。
具体的な安全教育のアプローチ
園児への安全教育には、多様なアプローチがあります。
- 遊びの中での学び: 子どもは遊びを通して多くのことを学びます。意図的に少し不安定な場所で体を動かす機会を設け、安全な体の使い方やバランス感覚を養うことも、結果として転倒などの怪我を防ぐことにつながります。ただし、これはあくまでリスク管理の下で行われるべきであり、危険を放置することとは異なります。保育者は、遊びの中で起こりうるリスクを予測し、安全を確保しつつ、子どもが自ら危険を回避する方法を学ぶ手助けをします。
- 教材の活用: 安全に関する絵本、紙芝居、歌、動画などは、子どもたちが楽しみながら学ぶための有効なツールです。具体的な登場人物を通して、危険な行動やそれによって起こりうる結果、そして安全な行動の例を視覚的・聴覚的に伝えることができます。これらの教材を用いた後に、子どもたちに内容について質問したり、自分ならどうするかを話し合ったりする時間を設けることで、理解を深めることができます。
- 体験を通じた学び: 避難訓練や交通安全教室など、体験を伴う活動は子どもたちの記憶に強く残ります。特に避難訓練は、単に指示通りに動く練習ではなく、なぜ避難するのか、どこに避難するのか、どのように行動すれば安全なのかといった目的や理由を、繰り返し具体的に伝えることが大切です。消防署や警察署、地域の交通公園などと連携した活動も、専門家から直接学ぶ貴重な機会となります。
- 日常的な声かけと対話: 最も基本的ながら、最も重要なアプローチかもしれません。日々の保育の中で、危険な状況に遭遇した際や、安全な行動ができた際に、具体的に声かけを行います。「階段は手すりを持ってゆっくり降りようね、急ぐと転ぶかもしれないから」「〇〇ちゃん、ブランコの周りで遊ばないで、危ないよ」など、具体的で分かりやすい言葉で伝え、子どもが納得できるよう丁寧に説明します。安全な行動ができた時には、「上手に手すりを持って降りられたね、すごいね」のように具体的に褒めることで、安全な行動への動機付けにつながります。
実践上の留意点と職員の役割
園児への安全教育を効果的に行うためには、いくつかの留意点があります。
- 繰り返し行うこと: 一度教えただけで子どもが安全な行動を習慣化することは困難です。様々な機会を捉え、繰り返し伝えることが重要です。
- ポジティブなアプローチ: 危険を知らせるだけでなく、安全な行動を選択できた経験を積み重ね、それを肯定的に評価することが、子どもの主体性を育みます。
- 職員間の連携: 園全体で共通の理解を持ち、一貫性のある声かけや指導を行うことが大切です。安全管理委員会などを活用し、園児への安全教育についても定期的に情報共有や研修を行うと良いでしょう。
- 職員自身の模範: 保育者自身が安全に関する意識を高く持ち、安全な行動を実践している姿を見せることが、子どもたちにとって最も身近で強力な模範となります。職員の安全意識の向上は、園児への安全教育の基盤となります。
まとめ
保育施設における安全管理は、施設や体制の整備に加え、そこで過ごす子どもたち自身が安全に関する基本的な知識を身につけ、自ら安全な行動を選択できるようになるための教育も重要な柱となります。園児への安全教育は、単なる知識の伝達ではなく、発達段階に応じた体験や遊び、そして日々の丁寧な関わりを通して、子どもたちの安全に関する感覚や判断力を育んでいくプロセスです。
子どもたちが主体的に安全な行動を実践できるようになることは、個々の子どもの怪我や事故を防ぐだけでなく、園全体の安全レベルを向上させることにもつながります。保育園の教育活動の一環として、園児への安全教育を計画的に取り組むことの意義は大きいと言えるでしょう。